構図とカメラワーク
前回はカメラのレンズについてお話でしたが、今回は構図やカメラワークの基本を紹介します。
構図
小説家が文字を通して、音楽家が音を通して伝えたいことを伝えるように、監督や演出家は”カメラ(レンズ)”を通して視聴者に伝えたいことを伝えるということです。
そしてカメラは視聴者の目でもあります。構図も同じ、ストーリーに関連しないようなものを無駄に目立たせてはいけない
世の中には様々なカメラワークや撮影技法はありますが、基本的にその根本には「伝えたいもの」があり、それを伝える手段として構図やカメラワークがあるということを忘れないで下さい!!
三分割線
三分割法は非常によく使われる構図です。画面を縦横それぞれ均等に3分割し、分割線と交点を基に被写体を配置します。これにより視覚的にバランスの取れた自然な絵作りをすることができます。
中央にある4つの交点を「スイートスポット」言い、これらの交点は視覚的に最もバランスの取れたポイントとされています。被写体の目をスイートスポットに配置するのが一般的で、被写体がどちらに視線を向けているかで左右のどちらのスイートスポットに配置するかが変わってきます。
この視線の先の余白を「ルッキングルーム」と言い、視聴者にカメラ外の情報(対話相手や見つめる先の対象物)も意識させることができます。
また、被写体が移動している際にもこのルッキングルームは有効で、左側に移動しているなら被写体は右側に、右側に移動しているのであれば左側に配置することで安定した構図を作り出すことができます。


風景写真では水平線を上部または下部の分割線に合わせると空や地面の広がりを強調できます。


ヒッチコックの法則
ヒッチコックの法則は、映画のシーンで重要な要素を強調するための手法です。この法則は、画面内のオブジェクトの大きさや配置はそのシーンでの重要性を反映するべきというものです。
例えば、あるキャラクターがシーンの中心的な存在である場合、そのキャラクターを大きく映すことで観客にその重要性を伝えます。逆に、あまり重要でないオブジェクトは小さく映したり、背景に配置したりします。(主に資格要素が少ない場合に効果を発揮します)

バランスの取れた構図
カメラの構図におけるバランスとアンバランスは、写真の印象やメッセージを大きく左右します。
バランスの取れた構図(左右対称や上下対称の構図)は、映像全体に安定感や調和をもたらします。また、キャラクターが対峙している場合などは力の均衡を表したりもします。

アンバランスな構図
アンバランスな構図は動きや緊張感、興味を引き出すために使われます。例えば、被写体の周りに広い空間を設けることで孤独感や広がりを表現したり、被写体を画面の端に配置することで、動きや不安定感を強調します。

カメラの配置や角度
次にカメラの撮影角度による違いを見ていきましょう。
あおりカメラ
あおりカメラ(カメラの角度を上向き)は威圧感や、巨大感などを演出したい場合に用いられることが多いです。また、キャラクターの自身や威圧感などの印象を表す際にも利用されます。
ex.巨大ロボットの登場シーンや、小さな子供が悪役の大人を見上げるシーンなど。


俯瞰カメラ
俯瞰カメラ(カメラを下向きに回転させて)説明的なカットに使用されることが多いです。また、キャラクターの弱さや受け身な印象を表す際にも利用されます。
ex.物語の導入シーンで街並みを映したり、複数のキャラクターが会話している状況を説明するようなカットなど。


イマジナリーライン
カメラの原則のルールのひとつ、「イマジナリーライン」について説明していきます。まずは下記を見てください。こちらはバストアップショットの一般的な会話シーンの簡単な再現です。
パースビューで見たカメラの位置関係は↓のようになります。
次に下記を見てください。こちらは先程と違い2カット目のカメラの位置を変更しています。
いかがでしょう、会話シーンというより別々の人物にインタビューをしているような印象ではないでしょうか。
パースビューで見たカメラの位置関係は↓のようになります。
これはイマジナリーラインを越えてカメラを配置してしまったために起こった現象です。
イマジナリーラインとは、被写体から前後に真っすぐ伸ばした仮想のラインのことで、このラインを跨いでカットチェンジを行ってしまうと、上記のように被写体の位置関係が混乱し視聴者にわかりずらい映像になってしまいます。

原則イマジナリーラインは超えてはいけないものですが、カメラワーク次第ではイマジナリーラインを越えた演出も可能です。
例えば下記のようにカットをせずにカメラが被写体の前を回り込むようにすれば、視聴者に混乱を与えずにイマジナリーラインを越えることはできます。(演出的に回り込みが必要なのかどうかは置いておいて)
カメラの配置による印象の違い
カメラをボールの真横に置いた第一回目で作成したバウンシングボールの動画です。
ボールとカメラの関係性をパースペクティブビューで見ると以下のような感じです。

次に下記動画を見て下さい。
こちらはカメラをボールの落ちてくる方向の傍に配置して、多少”あおり”(上方向に回転させる)にしています。
ボールとカメラの関係性をパースペクティブビューで見ると以下のような感じです。

いかがでしょうか?1つ目の動画と2つ目の動画で大分印象が違うと思います。
ですが、どちらも同じレンズ、同じアニメーションを使用しています。
1つ目の動画は説明的、ただただボールを映しているという印象です。
視聴者とボールとの心的距離も遠目です。
2つ目の動画の方はどうでしょう。こちらは巨大なボールが落ちてきて自分に迫ってきているような印象を受けると思います。
画ブレ(カメラが衝撃によってゆれること)とあおり気味のカメラによって、より大きいという印象が際立っています。
このように、同じアニメーションであっても、カメラをどのような意図をもって、どこに配置するかで視聴者に与える印象が大きく変わってくるということがおわかりいただけたと思います。
演出例
Star Wars EP3 オープニング
- 船と宇宙空間、物理的なものやライティングなどを利用した少→多、狭→広のダイナミックな絵作り。
Star Wars EP3 VS パルパティーン
- 冒頭、皇帝と二人の位置関係。数的にも内容的にもジェダイ側の方が優位。(俯瞰、あおり)
- バトル中、カメラは平行 ← ジェダイの優位が崩れて、対等な立場になった。
- 窓際にパルパティーンを追い詰める。再度ジェダイが優位に。 ← 俯瞰、あおり。
- アナキンを映すカメラは平行。
- ジェダイを倒し、パルパティーンが絶対的な優位に。ポーズ(演技)的にも膝をつき、カメラ的にもパルパティーン優位、アナキン下位の構図が成り立つ。
Titanic オープニング
- オープニング、舞台となる船の巨大感、豪華さ、人の多さ。 映画全体の雰囲気を伝える。
- ヒロイン登場シーン。帽子とSEを使って特別感を出す。2人目 あっさり。 3人目 重要度中。
Titanic 氷山衝突のシーン
- 氷山の報告を受けたあとのカメラワークの速度速く。カット切り替えも多い。 緊急事態、焦ってる感じを演出。
- 船の正面のシーン。広角レンズ、かつあおりで船の巨大感を出した後、次のカットで海上の氷山を船越しに映すことで氷山の巨大感を出している。(比較対象の無い海の上で氷山を普通に映しても大きさが伝わらない)
ショーシャンクの空に 脱獄シーン
- 脱獄中常にアンディの周りには壁が存在する。窮屈さ。檻の中。
ショーシャンクの空に エンディング
- 綺麗な三分割
- 脱獄シーンからの対比。周りには何もない→解放。ライティング(朝、夜。荒天、晴天の比較)でも表現。
マイノリティ・リポート
舞台:2054年のワシントンD.C.
技術:「プリコグ」と呼ばれる予知能力者の力を使い、犯罪が起こる前に犯人を逮捕する「予防犯罪(プリクライム)」制度が導入されている。
あらすじの基本設定:
主人公ジョン・アンダートンは予防犯罪ユニットのエリート捜査官。ある日、自分自身が未来の殺人犯として予知され、逃亡しながら事件の真相と制度の闇を探ることになる。
- 末広がり、歩いていく方向 ← 閉鎖された空間で職務を全うしているだけだったが、真実に向かって外の世界に向かっていく。
- エレベーター、拳をぶつける。← 絵的にトムクルーズを囲うようにしている。逃がさないという意志。
バイオレットエヴァーガーデン エンディング
- 二人の関係性を位置関係を使って表現。
- 返しのカメラの距離が段々と近づく。(二人の距離感が段々縮まっていくのを表現している)
- 少佐がバイオレットに寄り添うシーンのパン(短いパン幅でスピードも抑えながらイーズアウトを極限までゆるやかにすることによって絵的な単調さを和らげつつも優しさも表現している)
まとめ
現在数多くの映画や映像作品がありますが、それら一つ一つが演出の教科書でもあります。
カメラワークや演出を学びたい人はたくさんの映像作品を見るようにしてください。
そしてただ観るだけでなく、”このカットのレイアウトはどういった演出意図があるのか”という点に注目してみると新たな発見があると思います!
実際にカメラを配置してみよう!
それでは以上のことを参考にしつつ、実際にカメラを配置していきましょう!!必ず何を伝えたくてそういうカメラ配置、レンズにしたのかということを明確にするように心がけてみて下さい。
参考までにカメラを作成したものを紹介しておきます。
ジャンプ
地面付近にカメラを配置して、カメラに向かってキャラクターが走ってくるタイミングでカットチェンジします。今度は180度回転したカメラを配置してジャンプするキャラクターを見送るようにしています。
広角レンズでキャラクターの正面にあおり気味の角度でカメラを配置することにより、ダイナミックな絵作りを表現しました。また、カメラに近づくタイミングでカットチェンジを挟むことにより、目的がその先のジャンプであることを次カットで示しています。
木箱押し1
キャラクターを真横から標準レンズ~望遠気味で撮影し、キャラクターの動きと同時にトラックすることで箱が見えてきます。その箱をキャラクターが押して、その先の崖に落とすのをフォローするという内容です。
キャラクターの動きに合わせてトラックすることにより箱が急に表れるようにしています。あえて初めから崖と箱を映さずに、このキャラクターが何をするのかということに重点をおいた演出にしました。
木箱押し2
こちらは上記の内容と全く同じもの(キャラクターのアニメーションと箱のアニメーション)をカメラのみを変更したものです。
こちらは先程とは逆に、俯瞰カメラで全体像を先に見せることにより視聴者に状況を先にわからせておいて、大きな箱を頑張って崖から落とすということに重点をおいた演出にしています。
MAYAのモーキャプを利用しているのでフェイシャルはありませんが、2カット目にキャラクターの顔をアップで映すことにより、本来であれば力が入ってる表情を見せる効果もあります。
ボール転がし
こちらは坂の上から巨大なボールが迫ってきて、ギリギリで横をすり抜けいくようなイメージで作成しました。
カメラを出来るだけ地面に近づけて、ボールをあおる感じにしています。
更に巨大感を出すために、始めは小刻みな画ブレ、カメラに近づくにつれて大きくなり、また離れていくにつれ画ブレが小さくなるように調整しています。


